先日メインブログの方で紙屋(id:kamiyakenkyujo)さんの『不快な表現をやめさせたい!?』に対する批判を書いた。

ただ、本書に対しては他にもいくつか言いたいことがあって、そのうち重要なものについてはいずれ機会があればメインブログの方で改めて書きたいと思ってるんだけど、言いたいことの中にはあまり重要でないというか下世話な感じのトピックもあって、それについてはこっちで片づけてしまうことにする*1

で、そのトピックというのが太田啓子弁護士のツイートの取扱いで。私はツイッターの話題はあまり追ってないし、他人間のいさかいに口を出すのもなあ、という気持ちもありつつ、でもまあ完全に話題が落ち着いた現時点でも指摘されてないこともあって、そこがスルーされたままなのはよくないよな、ということで一応書く。

本書では、太田弁護士が「例のポスターは環境型セクハラ=法令上の人権侵害だ」との趣旨を述べたということにしたうえで、そうは言えない、と結論づけている*2。ポスターが法令上の人権侵害にあたらないことについては異論はない。

でもなあ……太田さん、そもそも例のポスターが「環境型セクハラだ」とは言ってないという。彼女が言ったのは「環境型セクハラしてるようなもの」*3。紙屋さん自身も多少自覚しておられるように見えるけど*4、これはそもそも若干「細かい部分」にこだわった感じのある議論だよね。私はそういう議論がダメだとは思わないけど、そういう「細かい」話をするのであれば、相手が正確にはどう述べたのか、といったことにはもっと気を配るべきだったんじゃないかな。

さらに、「環境型セクハラ=法令上の人権侵害」としているのもどうなのか。たしかに、セクシュアル・ハラスメントは男女雇用機会均等法11条1項に根拠をもつ法律用語的な側面もある。そのことを当然私は知ってるよ。でも一般の人がどれだけそれを知ってるのか。「セクシュアル・ハラスメント」という語は世間一般において、そういう法律用語的な意味に限定せず、もっとカジュアルに使われてるでしょ。

alu.jp

たとえばこれはいま適当に拾ってきたものだけど*5、この女の子のいう「Sexual Harassment」はたぶん法律用語的な意味での「セクシュアル・ハラスメント」にはあたらないよね。それでも私たちはこういう表現を詰めようとは思わず、普通に受容してるんじゃないかな。そのことは、日常語としての「セクシュアル・ハラスメント」が法律用語としてのそれよりも広い意味を持つものとして一般市民社会に浸透していることを示すものだと思う。まして、今回太田さんが言ってるのは「セクシュアル・ハラスメント」ではなく「セクハラ」だからね。さらに「いいかげん」な使い方が許容される余地は大きい。

そういう世間一般的な使われ方を無視して、わざと狭義に解釈したうえで批判するというのは、太田さんが法曹であることを考慮したとしても、あまりに意地悪すぎるんじゃないかなと私は思うけど、どうですかね。 

 

……ちょっとアルコールが入ってることもあって失礼な物言いになってしまったかもしれないけど、経歴を調べると紙屋さんは出身大学が同じっぽいので、 後輩が生意気なことを言っていると思って笑って許してくださるとうれしいです。

ああそれと、本書103頁の注2で太田弁護士のツイートのURLを示しておられるけど、誤ってますよ。「status」の部分が「atus」になってる。私が参照したのは初版1刷だけど、まだ直ってないなら修正した方がよいかも。参考までに。

*1:しかしメインブログの過去記事にも、こっちに移した方がいいようなのが結構あるんだよな……。どうしたものか。

*2:本書101頁から109頁。

*3:https://twitter.com/katepanda2/status/1183729350207623169

*4:本書105頁。

*5:吉元ますめくまみこ』。作者および出版社の承諾のもと、漫画のコマのブログ貼り付け等を自由に行えるという「アル」のサービスより、ってことを一応追記しておく(3月8日)。